※口唇口蓋裂の治療方針や保険診療についての詳しい説明は、
▶︎ 口唇口蓋裂の治療について をご覧ください。
「何度も手術を受けたけれど、鼻だけが気になる」
このような相談は少なくありません。
口唇裂鼻変形では、
- 斜鼻
- わし鼻
- 鼻尖下垂(垂れ鼻)
- 鼻孔や鼻翼の左右差
- 鼻の幅の左右差
など、複数の変形が同時に存在していることが多く、一つだけを治療しても十分な改善が得られないことがあります。
口唇裂鼻修正では、「どのような手術を行うか」と同じくらい、「いつ手術を行うか」が重要です。
なぜ私は最終鼻形成まで待つのか
この患者さんは、幼少期から私が一貫して治療を担当してきた症例です。
私は、手術はできるだけ少ない回数で終えられることが、患者さんにとって最も大切だと考えています。
手術を繰り返すたびに瘢痕(きずあと)は増え、組織は徐々に硬くなります。その結果、理想的な鼻の形をつくることが難しくなっていきます。
さらに、鼻は顔の中でも成長が遅く、青年期まで発育を続ける部位です。成長途中に何度も鼻の手術を行うと、本来の成長を妨げたり、将来必要になる修正が難しくなったりする可能性があります。
そのため私は、可能な限り成長が終了するまで待ち、最後の一回で最大限の結果を目指すという考え方で治療を行っています。
本症例でも、最終修正まであえて鼻形成を行わなかったことで組織の状態が良好に保たれ、精度の高い鼻形成術を行うことができました。
初回の口唇形成術から私が担当し、青年期となった今回、鼻の最終修正術を行いました。本手術が最後の外科的治療となるため、考えられる変形を包括的に修正する方針としました。
改善すべきポイントを決定する
手術前の顔貌写真です。
術前には
- わし鼻
- 斜鼻
- 鼻尖下垂
- 鼻幅の拡大
- 鼻孔の左右差
を認めました。
さらに、オトガイ後退に伴う口唇閉鎖不全があり、口を閉じる際には筋肉に強い緊張が生じていました。

手術計画
患者さんと十分に相談したうえで、鼻全体のバランスを整えることを目標に治療計画を立てました。
以下の点を修正目標としました。
- 斜鼻の修正
- わし鼻の修正
- 鼻幅の縮小
- 鼻孔の左右差の修正
- 鼻尖下垂(垂れ鼻)の改善
- オトガイ後退の改善
術前にはフォトショップを用いてシミュレーションを行い、具体的な修正量を患者さんと共有しました。
■シミュレーション
- 鼻尖:2mm挙上
- 鼻背:2mm下降(わし鼻修正)
- 鼻幅:左右それぞれ4mm縮小
- オトガイ:8mm前進(E-lineの改善)


手術
オープン法でアプローチし、湾曲した鼻中隔を切除しました。
採取した鼻中隔軟骨を移植し、下垂していた鼻尖を挙上しています。
最終的な鼻形態はリノメジャーを用いて術中に評価しながら決定しました。
鼻骨に対しては錐体骨切りを行い、鼻背の高さを調整することで、わし鼻を修正しています。
鼻翼についても外側・内側の両方を適切に切除し、鼻幅を縮小するとともに左右差の改善を図りました。
オトガイは口腔内からアプローチし、直視下に骨切りを行い、8mm前進させてチタン性のプレートで固定しました。


術後経過
術後は感染などの合併症なく順調に経過しました。
術後6か月の時点で、
- わし鼻は改善
- 鼻尖は自然に挙上
- 鼻幅は縮小
- 鼻全体の左右差も改善
オトガイ形成によってバランスの取れたE-lineが得られました。




シミュレーションとの比較
術前シミュレーション画像と術後を比較すると、ほぼ計画どおりの形態を得ることができました。
私は、術前シミュレーションは患者さんとのイメージ共有だけでなく、術中に目標を確認するための重要な指標でもあると考えています。

担当医からのコメント
口唇裂鼻変形では、一つひとつの変形だけを治すのではなく、鼻全体のバランスを考えながら治療計画を立てることが重要です。
また、鼻形成は「早く手術をすること」が必ずしも最善とは限りません。患者さんの成長やこれまでの治療経過を踏まえ、適切なタイミングを見極めることで、より良い結果につながることがあります。
当院では、患者さん一人ひとりの成長や治療経過を踏まえ、「最後の一回」で最大限の改善を目指した鼻形成を心がけています。