顔面神経麻痺後遺症の治療

 

顔面神経麻痺は、顔の表情筋を支配する顔面神経が損傷されることで起こります。特にベル麻痺やハント症候群(ラムゼイ・ハント症候群)により発症することが多く、これらはウイルス感染や炎症によるものです。点滴治療などで一定の麻痺の回復が得られても、不全麻痺や病的共同運動(シナキネシス)が残存することがあります。ここでは、顔面神経麻痺後遺症の病態、非外科治療、外科治療、およびリハビリテーションについて詳しく説明します。

    病態の説明

    ベル麻痺

    ベル麻痺は、顔面神経の急性の炎症によって引き起こされ、顔の片側が突然麻痺する病態です。通常、原因は明確ではありませんが、ウイルス感染(特にヘルペスウイルス)が関与していると考えられています。ベル麻痺の多くは数週間から数ヶ月で自然に回復しますが、一部の患者では完全に回復せず、不全麻痺やシナキネシスが残ることがあります。

    ハント症候群(ラムゼイ・ハント症候群)

    ハント症候群は、帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)の再活性化により、顔面神経が侵される病態です。これにより、顔面麻痺とともに耳周囲の痛みや水疱、耳鳴り、難聴などが発生します。ハント症候群の回復はベル麻痺よりも遅い傾向があり、後遺症が残ることが多いです。

      顔面神経麻痺後遺症(麻痺の残存と病的共同運動)

      顔面神経麻痺の急性期ではおでこや眉毛、頬やくちびるなどの動きに障害がでます。麻痺側の眉毛の位置が下がり、上まぶたの皮膚が覆いかぶさることで視野が狭くなります。また、まぶたが閉じにくくなり、眼が乾燥したり炎症を起こすことがあります。麻痺側のくちびるがさがり、ほうれい線(鼻唇溝)が消失したり、食べ物や飲み物がこぼれでることがあります。ベル麻痺やハント症候群の急性期には、ステロイド薬や抗ウイルス薬の点滴治療が行われます。これにより、神経の回復が促進され、後遺症のリスクが減少します。治療により神経は回復していきますが、人によっては完全には回復せず、部分的な麻痺が残ることがあります。

      病的共同運動とは、顔のある部分を動かそうとしたときに、意図しない別の部分も一緒に動いてしまう現象です。例えば、笑おうとして口角を上げようとすると、同時に目も一緒に閉じてしまうことがあります。これは、神経が回復する過程で、神経繊維が本来の接続先を間違ってつなぎ直してしまうことが原因です。本来ならば別々に動かせるはずの筋肉が、同時に動いてしまうのです。このような病的共同運動は、顔の表情を自然にするのを難しくし、見た目にも影響を及ぼします。

        治療について

        上記のような症状に対し、顔面神経麻痺発症からの経過や患者さんそれぞれの状態に応じて治療を行います。発症から比較的早期で表情筋の変性や萎縮が強くない新鮮症例では、神経縫合や神経移植術、交叉神経移植、神経移行術を行います。発症から時間が経過しており筋肉の変性や萎縮を認める陳旧例では、変形を矯正するような静的再建術(眉毛のつり上げやまぶたの矯正、まぶたを閉じやすくする手術、口角のつり上げなど)や筋肉などの組織を移植し‘笑い’の再建を行う動的再建術などを行います。病的共同運動や拘縮に対しては、症状を軽減するためにボツリヌストキシンの注射、神経や筋肉の切除術、神経移植などを行っています。

        以上をまとめますと、顔面神経麻痺の治療では、経過や麻痺の状態に応じて適切な治療法を選択し、また、これらを組み合わせて治療を行うことが多いです。様々な病態や症状に対応する必要があるため、専門的な知識や技術を要します。治療は、外来診療や日帰り手術で可能なものから入院加療が必要になるものまで様々です。

        リハビリテーションについて

        エクササイズと訓練

        ・基本的な顔の運動

        額を上げる、眉をひそめる、目を閉じる、笑う、頬を膨らますなどの基本的な運動を繰り返すことで、筋力を強化し、対称性を改善します。

        ・進行的抵抗運動

        小さな抵抗をかけて顔の筋肉を動かすことで、筋力をさらに強化します。例えば、指を使って抵抗を与えながら目を閉じる練習などが含まれます。

        ・バイオフィードバック(ミラーセラピー)

        鏡を用いて健側の顔の動きを観察し、麻痺側を同様に動かす練習です。これにより、神経の再教育が促進され、対称的な表情を取り戻すことができます。

        顔面神経麻痺のリハビリテーションについての動画はこちら↓

        まとめ

        顔面神経麻痺後遺症の治療は、多岐にわたるアプローチが必要です。非外科治療、外科治療、およびリハビリテーションを組み合わせることで、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。自己管理と継続的な努力が、回復への鍵となります。

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