顎変形症

人中短縮術の適応を再考する ― 「偽の人中延長」を見逃さないために

日本人若年成人女性の平均的な上口唇長(鼻下から赤唇上縁まで)は13-15mmです。

これを超えて長くなると、人中が長くなったように感じて、人中短縮を希望する患者さんがいます。

しかし、数値が大きいのでという理由で、短絡的に人中短縮を受けると上顎前歯が見えすぎてしまって、出っ歯のようにみえてしまうこともあります。

なので、人中短縮を考慮する場合は上顎の位置が正しい位置にあるかどうか、上顎の垂直的な長さが長すぎないか、短すぎないかをよく考えてから手術適応を決定する必要があります。

そうでなければ決定的な間違いを起こしてしまいます。

人中短縮術で失敗しないために ― 長いのは本当に「人中」でしょうか?

美容外科診療をしていると、

「人中が長いので人中短縮術を受けたい」

という相談を受けることがよくあります。

確かに人中(鼻の下から上口唇の赤唇までの距離)が長くなると、顔が間延びして見えたり、老けた印象を与えたりすることがあります。そのため近年、人中短縮術は非常に人気の高い施術の一つとなっています。

しかし、人中が長く見えるからといって、すべての患者さんが人中短縮術の適応になるわけではありません。

ここを間違えると、術後に「思っていた顔にならなかった」という結果につながることがあります。

人中の長さだけで判断してはいけない

日本人若年成人女性の平均的な上口唇長(鼻下から赤唇上縁までの距離)は、おおよそ13〜15mmとされています。

この数値を超えていると、人中が長いと感じる方が増えてきます。

しかし、人中短縮術の適応を考える際に重要なのは、単純な長さの数字だけではありません。

顔貌全体のバランスを評価する必要があります。

特に重要なのが、

  • 上顎の前後的位置
  • 上顎の垂直的な長さ
  • 上顎前歯の見え方
  • 口唇の厚みやボリューム

です。

これらを無視して人中だけを短くすると、予想外の問題が生じることがあります。

人中短縮で「出っ歯っぽく見える」ことがある

人中短縮術では、鼻の下の皮膚を切除して上口唇を上方へ引き上げます。

その結果、上顎前歯の露出量が増加します。

もともと上顎前歯が十分見えている人や、上顎が前方に位置している人に対して人中短縮術を行うと、歯が見えすぎてしまうことがあります。

患者さん自身は出っ歯ではなくても、

「なんとなく口元が前に出たように見える」
「思ったより口元が強調された」

と感じることがあります。

これは手術自体が失敗したわけではなく、適応の判断が不十分だったために起こる問題です。

本当に治療すべきなのは人中ではないかもしれない

さらに重要なのは、人中が長く見える原因が人中そのものにない場合があることです。

例えば、

  • 上顎が後退している
  • 赤唇が萎縮している
  • 上口唇のボリュームが低下している

といった状態では、実際の人中長は正常でも人中が長く見えることがあります。

私はこれを「偽の人中延長」と考えています。

このようなケースでは、人中短縮術よりも口唇へのボリューム補充や顎骨に対する治療の方が適していることもあります。

人中短縮術は顔全体を見て判断するべき

人中短縮術は有効な手術ですが、「人中が長いから切る」という単純な話ではありません。

顎顔面外科の視点から見ると、人中は顔面骨格や口唇とのバランスの中で評価されるべき部位です。

上顎の位置や前歯の露出量を十分に検討せずに手術を行うと、取り返しのつかない違和感につながる可能性があります。

人中短縮術を検討している方は、人中の長さだけでなく、顔全体のバランスを評価できる医師に相談することをおすすめします。

本当に短くすべきなのは人中なのか、それとも別の部位なのか。

そこを見極めることが、満足度の高い治療につながります。 

大守 誠

大守 誠(おおもり まこと) 形成外科専門医・顎顔面外科医 顎変形症、口唇口蓋裂、顔面骨形成を専門とする形成外科医。 顎矯正手術、頬骨形成術、オトガイ形成術など、顔面骨格に基づいた機能的かつ審美的な治療を得意としています。 特に、口唇口蓋裂に伴う二次変形や、骨格性不正咬合に対する外科的矯正治療においては、顔全体のバランスと長期安定性を重視した治療計画を行っています。 また、美容外科領域においても、解剖学的根拠に基づいた安全性の高い手術を心がけています。 本サイトでは、顎変形症や顔面骨手術の症例紹介、治療の考え方、患者さんに知っていただきたい医学的情報を、専門医の立場から分かりやすく発信しています。

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