顎変形症の治療において、通常の上顎前進術では移動量が不足するために骨延長術を必要とするような特殊なケースが生じることがあります。
それは口蓋裂に伴う上顎後退に対して、上顎を前方に移動する必要がある場合に生じます。
通常の顎変形症では8ミリ程度の上顎前方移動は、さほどの困難を伴わずに行うことができます。しかし口蓋裂による上顎後退の場合は話が別になります。その理由は骨を覆っている粘膜に瘢痕(キズアト)があるので、粘膜が思ったように伸びてくれないからです。口蓋裂の患者さんに上顎前方移動手術を行うと、“骨はキチンと切れていて移動できるのに、粘膜が伸びないために8ミリ出したかったのに、結局4ミリしか出なかった。” ということが頻繁に起きます。また、粘膜を無理に前方に引っ張ると、血流障害を起こして、最悪の場合は上顎が壊死してしまうことがあります。これは絶対に避けなければいけない合併症です。
このような場合に骨延長術がその効果を発揮します。骨延長と名前はついていますが、実際は粘膜の延長が目的です。瘢痕で伸びない粘膜も持続的に少しずつ力を加えて、延ばしていくとしっかり延びてくれるということです。
具体的な手術方法ですが、上顎はルフォー1型骨切り術を行い、上顎骨に骨延長器を装着して、閉創します。3−5日後から1日1ミリのペースで骨延長を行い、予定の延長量に達した時点で延長をストップします。延長器には頭に取り付ける、外付けタイプの延長器(図1)と口腔内に取り付けるタイプの延長器(図2)があります。
骨延長後は少しの保定期間をおいて、もう一度手術を行い、今度は下顎も骨切りして(2 jaw surgery)上下の顎を理想的な位置に配置して、延長器を除去してプレート固定に変更します。
そこまでして上顎を延ばさずとも、下顎を下げるだけで咬みあわせは充分に作れるのではないの? という意見もあるのですが、上顎を適正な位置に配置するということは整容面において非常に重要な意味を持つことなので、私達としては、手術前の診断で上顎を前方に出した方が整容的に好ましいと判断した場合には、積極的に骨延長の手技を使って上顎を前方に出す提案をするようにしています。