私、顎無しなんです。。
これは患者さんからよく聞く言葉です。
一般的に「顎がない」というと、多くの方は顎先が小さい状態をイメージされています。医学的にはこの部分を「オトガイ」と呼びます。一方、「下顎」という言葉は顎全体の骨を指します。本稿では「顎がない」をオトガイ後退として説明します。
オトガイ後退の方には次のような特徴があります。
・下唇から顎先にかけてのラインが一直線である。
・顎先から頚部にかけての距離が短い。
・体重は標準的でも二重顎に見えやすい。
が挙げられます。
機能的な問題としては
オトガイ後退の方は、口が閉じにくいと感じていることが少なくありません。
梅干しシワが生じる原因
オトガイ筋は下唇を前に押し出す筋肉です。口が閉じにくいと下唇を前方に突き出して口唇閉鎖をしようとするので、オトガイ筋が強く収縮して、俗に“梅干し”と表現されるたくさんの小ジワが出現します。横顔では顎先の自然なS字カーブが失われます。(図)

二重顎になる理由
オトガイ後退の人は、顎先から頸部にかけての距離が短いため、少しうつむくだけでも、顎の下に皮膚が余って見えます。これがオトガイ後退の人がそんなに太っていないのに二重顎が出来てしまうことの理由です。(図)

ではどうすればいいのか?
一般的にはオトガイを前方に移動させることで、口が閉じやすくなり、オトガイ筋の緊張が緩んでキレイなオトガイの形態(S字カーブ)が得られます。
オトガイを前方に出す手段としては、
① 骨切り術
② インプラント挿入術
③ ヒアルロン酸注入
の3つが現在用いることができる方法です。
ヒアルロン酸の注入はお手軽なのですが、骨ではなく、軟部組織を増大させる方法であるため、どうしても餅をくっつけたような不自然な形態になってしまうことは否めません。
インプラントは適切な症例では有効な治療法です。しかし、骨切り術のように骨へ強固に固定することができないため、術後に位置がずれてしまうことがあります。また、長期間ではインプラントに接している骨に骨吸収が生じることもあります。
このような理由から、私たちはオトガイ後退の治療には骨切り術を第一選択としています。骨切り術は前進させる量の調節が容易で、プレート固定を行うので高い安定性が期待できます。
以上の理由から、私たちは骨切り術を用いています。手術は、口の中の切開から行いますので見えるところに傷は出来ません。オトガイ形成術は顔面の骨切り術の中では難易度が低く、比較的安全性の高い手術です。実は難しいのは手術そのものではありません。どれくらい前に出せば、その患者さんにとって最も自然で美しい横顔になるのか。その移動量を正確に設計することが最も重要です。
症例紹介
30代、女性
オトガイ骨切りで10mm前方に移動し、チタンプレートで固定しました。
術前後でオトガイの形態は改善し、口唇閉鎖も楽になりました。

よくある質問
Q: 手術ではどこを切開するのですか?
A: 下顎の前歯の下の粘膜を切開して、そこから骨切りと固定を行います。外側の皮膚切開は通常は不要です。
Q: ダウンタイムはどれくらいですか?
A: 大きな腫れは術後2週間で落ち着きます。あとはゆっくりと腫れがひいていきます。完全に腫れが無くなるのは6ヶ月後とお考えください。
Q: 骨切りの合併症について教えてください。
A: 骨切りのデザインにもよりますが、術後に軽度のオトガイ神経の知覚麻痺が生じ、両側の口角の間の皮膚と口唇の感覚が少し鈍くなることがあります。時間経過で回復することがほとんどです。口の動きに関しては、オトガイ筋を一旦切離して、再縫合するので術後しばらくの間(2-3ヶ月)口を動かした時の動きがぎこちなくなります。こちらも自然に回復します。
まとめ
オトガイ骨切り前方移動術は、オトガイ後退にともなう口唇閉鎖不全と側貌の改善に有用な方法です。ほかの顔面骨切り術と比較すると、オトガイ形成術は比較的侵襲が少なく、安全性の高い骨切り術です。口元やフェイスラインにお悩みの方は、一度専門医にご相談ください。