上顎前突症の治療では上顎を後方に移動する手術計画になることが多いです。また、開咬症の治療や下顎前突症の治療では咬合平面を時計方向に回転させる手術計画をたてることがあり、この場合は上顎の臼歯部を頭側に挙上することになります。
上顎後退症の治療のように骨切りした上顎を前方に出す手術では、上顎を前に引き出すときに干渉する骨がないので、上顎をスムーズに移動させることができます。これに対して、上顎を後方に移動させ、上顎臼歯部を頭側に挙上しようとすると、そこにはさまざまな骨の干渉があり、それらをひとつひとつ解決していかないと、スムーズな移動を行うことが出来ません。(図)
われわれは上顎を後方に移動させるにおいて、上顎の後方にある翼状突起という骨を上顎と一緒に骨切りして、一塊として後方に移動させる方法(total maxillary setback)を用いています。(図)
これに加えて、上顎を上方移動するには骨切りした移動骨片の干渉部位をバーで削って干渉を無くしておき、同時に上顎側の干渉部位もバーや超音波削合器で削って干渉を取り除くことで後方を挙上します。この操作で後方移動は5ミリ程度、上方移動も5ミリ程度の移動が可能になります。一般的な顎変形症手術の上顎の移動距離としては十分です。