顎変形症の治療について

顎変形症とは?

顎変形症は咬合の異常を伴う顔面形態異常です。形態異常の種類として、反対咬合、正貌での顔軸のゆがみ、上顎前突、開咬などがあります。成因としては口唇口蓋裂や第一第二鰓弓症候群などの先天性疾患に伴うもののほかに、成長に伴って上顎と下顎の成長の調和不均衡が起きることで生じるものがあります。顔貌と咬合の異常を改善するために、上顎と下顎の骨を切って正しい位置に移動し、固定する手術を行います。

※手術前後に矯正歯科医による専門的な治療が必要になります。具体的には、骨を移動した後にきちんとしたかみ合わせがつくれるように術前矯正を行い、術後に微調整と咬合の安定を図るために追加の矯正治療が必要となります。顎変形症の矯正歯科治療では健康保険が適用されるケースがあります。健康保険の適用には施設基準がありますので、こちらから施設基準を満たした歯科医院を紹介して、通院していただきます。

サージャリーファーストアプローチについて

サージャリーファーストアプローチ(手術先行型顎移動術)は、海外では広く行われている方法です。術前矯正を全く行わないか、最小限の術前矯正にとどめ、まず手術を行います。術後に矯正治療を行い、咬み合わせを整えます。

従来の顎変形症手術の方法は、まず術前に矯正治療を行って、手術後に咬合が合う状態にしてから手術を行うというものです。この方法のメリットとしては、健康保険の適用になることがあるので治療費の負担が少なくて済むということがあります。デメリットは矯正が進むにつれて顔貌がどんどん悪化することです。なぜ悪化するのかというと、カムフラージュされていた元々の変形が、矯正治療が進むにつれて明らかになってくるからです。

これに対して、サージャリーファーストアプローチではまず顔貌を変えてから、矯正を行うため、顔貌が悪化する時期がありません。また、手術後には歯の移動が早く進むことが明らかになっており、結果的にトータルの矯正期間が短縮されます。矯正開始から1年以内に治療が終了することもめずらしくありません。

サージャリーファーストアプローチの利点は下記の通りです。

① まず顔貌を整えてから、歯の矯正を行うので術前矯正にともなう顔貌の悪化がないこと

② トータルの矯正期間が2/3-1/2に短縮されること

顔貌の改善目的で手術を行うのであれば、できるだけ早期に顔貌を改善するのが合目的ですので、サージャリーファーストアプローチの良い適応と考えます。サージャリーファーストアプローチは健康保険の適用外となります。

 

顎変形症のタイプとその治療について

下顎前突(受け口)
 下顎前突の顔貌と咬合(かみ合わせ)

 

下顎前突では上あごの前歯が前方に傾いていて、下あごの前歯が後方に傾いているので、反対咬合であっても軽度であったり、反対咬合ではなかったりすることがあります。しかし、下あご全体が上あごに対して前方に位置するので、いわゆる“しゃくれ”と呼ばれる顔貌になります。

下顎前突の治療

上あごの位置に問題がなく、下あごが前方に位置している場合は、矢状分割骨切術(SSRO)という方法を用いて下あご全体を後方に移動します。顔が長い印象が緩和され、丸顔で柔和な感じの顔つきに変化します。

しゃくれた感じに加えて、笑った時に上あごの歯茎(はぐき)が過度に露出したり、逆に上あごの前歯が全く見えなかったりする場合は、上あごをルフォー1型骨切り術という方法で適切な位置に移動させつつ、下あごを後方に移動します。(2 jaw surgery)

    上顎前突

    上あごが下あごに対して、過度に前方に位置する状態です。

    上顎前突の顔貌と咬み合わせ

    上顎前突

    ​上顎前突では、上あごの前歯は前方に突出して、いわゆる“出っ歯”の状態になることがしばしば認められます。また、笑った時に上あごの歯茎(はぐき)が過度に露出することもよく認められます (ガミースマイル)。

    下あごが引っ込んでいるために、下あごの先端(オトガイ)の高まりがほとんど認められず、口が閉じにくいため、気を許すといつも半開きになっているようなことがあります。口を頑張って閉じると下あご先の皮膚に筋肉の収縮によるシワが生じることがあります。

    かみ合わせが深くなって、正面から見て下あごの歯がほとんど見えなくなることがあります。かみ合わせが深くなっている場合は、顔の縦方向の長さが下顎の歯の長さだけ短くなるので、四角いホームベース状の輪郭になることがあります。

      上顎前突の治療

      上あごの位置に問題がなく、下あごが後方に位置している場合は、SSROで下あご全体を前進させて、プレートで固定します。出っ歯の程度が強かったり、笑った時にはぐきが過度に露出する場合は上あごをルフォー1型骨切り術で適切な位置に移動させつつ、下あごを前方に移動します。(2 jaw surgery)

      上顎前突では、側貌を整えるために、オトガイの前進術を同時に行うことがしばしばあります。

        上下顎前突症とその治療
        上下顎前突

        臼歯(奥歯)のかみ合わせは良好ですが、上下の歯と歯槽骨が前方に飛び出して、口元が突出して、口が閉じにくくなっている状態です。手術を行わずに治療を行うのであれば、上下の小臼歯を抜歯して、歯科矯正治療を行って口元をある程度下げることができます。手術を行う場合は、手術中に上あごと下あごの小臼歯を抜歯して、そこの部分で、歯槽骨の骨切りを行い、前方6本の歯を後方に下げます。(歯槽骨切り術:セットバック)

          顔面非対称(顔のゆがみ)とその治療

          顔のゆがみには上あごの高さの差に原因があるもの、下あごの左右の長さに原因があるもの、またはその両方に原因があるものがあります。眉間と顎先の真ん中の点を結んだ直線と、眉間と上唇の山型の部分(キューピッド弓)を結んだ直線が一致せず、左右どちらかに傾いています。

          上あごに原因がある場合は、口角の高さに左右差があり、上唇と下唇を閉じた線が水平に対して傾いていることが多いです。下あごに原因がある場合は下唇が下あごの短い方に水平に寄ったようなゆがみを認めます。

          手術治療には、上あごに原因がある場合は2 jaw surgeryが、下あごにのみ原因がある場合ではSSROが用いられます。

            顎変形症の治療に用いられる手術術式について

            ​上顎骨切り術 (ルフォー1型骨切り術)
            ルフォー切る前
            ルフォー骨固定後

            上くちびるの内側の歯茎の部分を切って、そこから上あごの骨を切ってあらかじめ決めておいた移動させます。骨の固定はチタン製のプレートか、吸収性材料のプレートを用いて行います。チタン製のプレートはずっとそのまま置いておいても問題ありません。希望がある場合は術後1年以内くらいで、抜去術を行います。

              下顎骨切り術 (矢状分割骨切り術 SSRO)
              SSRO
              SSRO固定後

              下の奥歯の外側の歯茎のあたりを切って、そこから下あごの骨を骨切りして、あらかじめ決めておいた位置に移動して、チタン製のプレートで固定します。

                分節骨切り術 (歯槽骨切り術)
                上下顎分節骨切り
                上下顎分節骨切り

                上下の前から4番目か5番目の歯(小臼歯)を抜歯して、その位置で歯茎の骨(歯槽骨)を骨切りします。抜歯で出来たスペースの骨を切除して、歯槽骨を後方に下げて(セットバック)チタン製のプレートで固定します。

                  おとがい骨切り術 (genioplasty)
                  オトガイ
                  オトガイ形成

                  前歯の下あたりの下唇を切開して、そこからあご先(オトガイ)を骨切りして、エステティックライン(E-line)を参考にしながら顔面全体のバランスが整う位置で、骨をチタン製のプレートで固定します。

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